2008年4月19日土曜日

ファンタジー小説「オリバーの敵討ち」の紹介

友人からすすめられ、この小説を読みました。

感想は、時間が経つのを忘れるくらい夢中になって読んでしまいました。

この先どうなるのだろう?次の展開が気になってしまったからです。

主役の「オリバー」「警部補佐の麻美」を始めとする登場人物の個性が、それぞれはっきりとしていて誰にでもわかりやすく表現していました。

ストーリーは1シーン、1シーン、情景を思い浮かべれるほど、きめ細かく丁寧に表していて、軽快でテンポが良いため、いつの間にかページは進んでいました。

読み終わったあとは爽快な気分になりました。

私はこの小説の本が欲しい!また、実写が見たい!と思いました。

友人を通し著者に聞くと、発行にはかなりの金額がかかるとのことでダウンロード販売という形式にしたそうです。

価格の1,111円の意味を聞くと、主役のオリバーが犬なので「ワンワンワンワン」にしたとのことです。

読者の応援で本の発行、そして実写化(2時間もののドラマ)を願い、紹介しました。

著者、桃華さんの了解を得て、始めから数ページ分を以下に掲載したので、気になった方は「MY BOOKLE(マイ ブックル)」〔http://www.mybookle.com/browse/mainというサイトで販売していますので一読ください。

さらに第2弾、第3弾まであるとお聞きしましたので、楽しみにしています。

桃華さんのサイトです→http://www1.odn.ne.jp/~cko62790/newpage5.html

新規のトラフィックサイトです→http://www.dream-traffic.biz/?ref=458

オリバーの敵討ち-THE VOICE IN THE HEART-

著者 桃華

※第一章 拾われて※

「こっちだよ、早く」
「分かっているけど、暗くて前が見えないんだよ」
「ちょっと待って、懐中電気をつけるから」
「本当に、犬がいるの?」
「いるさ、今朝、学校に行くとき、ちゃんといたもの」
 ここは、石川県金沢市の南部にある犀川の河川敷である。
 
 犀川には、何本かの橋が架かっていて、その橋の一つに下菊橋がある。
 その橋の下で、ホームレスが段ボール箱を組み合わせて、周りを青いビニールテントで囲い、住居にして住ん
で居るのが幾つか見られた。
 ただ、ここ一年ほど前から、上菊橋をリニューアルすると言うことで、ホームレスは退去を命じられ、少しずつではあったが、姿は見えなくなっていた。
 この日の夕方、五時を回ろうとした頃、ホームレス達が残していった段ボール箱の中を覗き込む少年達がいた。
 懐中電気で照らして見ようとしている、この少年は、菊川町小学校に通う小学五年生の小倉良二である。
「あっ、いた!」
大声をあげたのは、同級生の真壁昇である。
「良ちゃん、この犬、怪我してる」
「どこを?」
「どこか分からないけど、僕の手に血が付いた」
「どうしたらいい?」
「病院に連れていかないと」
「僕、お金持ってないよ」
「訳を言って後で持っていけばいいさ」
 犀川から南に歩いて十分位行くと、大通りに出る、その道路沿いに岡村動物病院の看板が見えた。
 少年達が、よく自転車で走り抜けている道なので、覚えていた。
「重かったな。何キロ位あるんだろうな?」
 二人は、二十分以上もかかって、やっとのおもいで病院の前まで来ていた。 
 体中が真っ赤な血に染まっていた、犬を抱きかかえて、病院へ入っていった。
「君たちの犬かい?」
「僕の犬です」
 そう言って獣医師の顔を見上げたのは、小倉良二である。
獣医師は、診察室まで抱きかかえて診察台の上に寝かせた。
「先生、大丈夫ですか?」
と、心配そうに覗き込んでいるのは、真壁昇である。
「君たち、この子犬どこも怪我していないみたいだよ」
 診察台に乗せて子犬を仰向けにしたり、毛を逆撫でしたりして診察しているこの獣医師は、岡村動物病院の院長の岡村邦夫である。
「えっ! だって血がこんなに付いてるに?」
 真壁昇が不思議そうに言った。
「ほら見てご覧!子犬はどこも痛そうじゃないだろ、それにこんなに元気だ!」
「じゃあ、どうして血が付いたんだろう?」
 小倉良二が、不思議そうに岡村に聞いた。
「先生にも分からないけど、とにかく綺麗に洗って上げないと可哀想だから、今から洗って上げるね。これからは気を付けて世話してあげるんだよ」
 岡村は、犬を洗うとタオルで拭き始めた。
「この子犬の名前は?」
「昨日、犀川で拾ったばかりだから、名前はまだないんです」
「そうかぁ~、早く考えてあげないと、かわいそうだなっ」
「はい」
 小倉良二は、元気な声で返事をした。
「一応カルテを作っておくから、体重を測って置こうね。それから君の名前と住所と電話番号を教えてくれるかな?」
 小倉良二は、カウンターに置かれた紙に書き込んだ。
「はい、これで綺麗になった。今日はサービスしとくよ。子犬の名前が決まったら、いつでもいいから連絡して下さい」
「先生!この犬何歳位なんですか?」
 真壁昇が聞いた。
「何歳位ってこの犬はまだ、五・六ヶ月と言うところだね」
「だって、こんなに大きいのに」
 良二も昇も、びっくりして診察台の子犬を見た。
「それはこの犬の種類が、セントバーナードの子犬だからだよ!世界で一番と言ってもいいぐらい、大きくなる種類なんだ」
 二人は顔を見合わせ、どのくらい大きくなるんだろうと話していた。
 良二は、診察券を作ってもらい、昇と二人で子犬を抱きかかえて病院を出て行った。
 病院の玄関を出たとき
「さぁ、早く帰ろう」
昇は、外が真っ暗になっていたせいか時間が気になっていた。
「この子犬、どうしょうか?」
 良二は、子犬を抱きかかえたまま不安そうな顔をして言った。
「どうしょうかって、良ちゃんが飼うんだろ」
「うん、そうなんだけど、もう、犀川には持っていけないだろ」
「そうだけど。家に連れて帰れないの?」
「家の人には内緒なんだ」
 良二は、困った様子で昇に言った。
「お願いしてみればいいじゃないか?僕がいっしょに頼んであげても良いよ」
「でも、僕の家は官舎だからダメなんだ」
 良二の父は、警察官のキャリアということもあって、転勤が多く官舎に住むことが多かった、それ故に良二は小さい時から動物を飼うことを諦めざるおえない環境に育っていた。
「じゃ~、どうする?」
 二人はなんの方法も浮かばないまま、病院の前から動こうともせず座り込んでいた。
「君たち!まだいたのか」
 岡村獣医師が声をかけてきた。
 二人はびっくりして立ち上がった。
「もう、てっきり帰ったとばかり思っていたよ。子犬がお腹空かせているよ。早く帰らないと」
 岡村の言葉に、良二は涙が浮かべた。
 その様子みて岡村は何か訳があることに察しが付いた。
「今晩は先生が預かってあげようか?明日、学校が終わったら来なさい。その時、事情を聞くから、今日はもう遅いから早く帰りなさい」
 岡村は時計を見ながら、八時が過ぎているのを二人に告げると、子犬を抱きかかえ車の助手席に乗せた。
 岡村は開業医とはいえ、結婚をしてから近くのマンションに住まいを構えていた。病院の裏には実家があるが両親と妹が住んでいて、急患があれば連絡を貰えるということになっていた。
 良二と昇は、それぞれが帰宅していた。
 良二の方は、親に言わなくては…と思いながら、ダメだ!と決まった返事が返ってくると分かっていたので、言いそびれていたまま時間だけが過ぎていった。帰りが遅かったことを食事中に叱られたこともあって、早々に子供部屋に入って行き床に付いていた。
 一方、昇といえば犀川に行ったことや、動物病院であったことを、夕食時に家族に話をしていた。
「どんな子犬なの? 色は? 」
 興味津々で聞いてきたのは、昇の四つ年上の城南中学に通う姉の真壁咲子である。
「どんなって病院の先生は、セントバーナードの子犬だって言っていた」
「へぇー。血統書付きなんだろう。すごいじゃないの」
 母の一枝は、一度も見たことないから見てみたいと言った様子で昇に話しかけてきた。
「でも、お母さん良ちゃんの家では、飼えないから困っているんだよ」
「そうね、小倉さんの家は確か警察の官舎だったわよね。それじゃ無理ね」
「どうしたらいいかな?」
 昇は、良二のことが心配だった。
「仕方ないじゃないの、誰も飼うことできないんじゃ。誰か貰い手を探さないと」
 姉の咲子にそう言われて、昇は明日、良二にどう言って言葉を掛ければいいか考えていた。
 次の日の朝、昇の母が朝食を食べながら
「二人で岡村病院の先生に相談してみれば?専門家に相談するのが一番良い方法よ」」
 と母親に言われた言葉を良二に伝えようと、自宅を早めに出て良二の家まで向かえに行った。
「良ちゃん、おはよう。家の人に犬のこと話した」
 昇が聞くと、首を横に振って下を向いたまま返事をした。
「じゃあ…どうするのさ」
「分からないから、困ってるんじゃないか」
 良二は、下を向いたまま答えた。
「良ちゃん病院の岡村先生に相談してみよう、僕の母さんが先生なら貰い手だって見つけてくれるかも知れないって言ってたよ」
「そうかなぁ…」
 良二は、不安そうにうつむいていた。
「だって飼うことが出来ないなら、誰かに飼って貰うしかないよ」
 昇は良二を説得仕始めた。
「うん…。そうだね」
 良二は、仕方ない事だと自分にに言い聞かせようとしていた。
 良二と昇は放課後、岡村病院に一緒に行くことを約束して教室に入って行った。
 放課後、二人は足早に岡村病院に向かって走っていった。
「こんにちは、昨日は有り難うございました。子犬は元気ですか?」
 二人がそう言いながら、診察室の中を覗き込んでいた。
「君たちか、学校は終わったのか?」
 岡村が診察室から出てきた。
 困った顔をして、二人に話をしてきた。
「実はさっき警察から電話があって、子犬を探している人がいるんだって。その子犬がどうもこの子犬らしいんだよ」
 良二と昇は、キョトンとした顔で、岡村の話を聞いていた。
「それでね、警察の人がもう少しすると、ここに来るんだ、君たちに話しを聞きたいらしいんだ」
 二人は不安だったが、飼い主がいるんだったら、自分たちの心配は解決すると思ったら何となくホッとしていた。
「僕たち、警察の人が来るまで待ってみます」
 そう良二が言うと、
「これで良かったんだよ」
と、良二は昇の耳元で囁いていた。
 少し時間がかかるかも知れないと、岡村が言ったので、
「僕たち最後になるかも知れないので、子犬と散歩してきて良いですか?」
 二人はいつも間にか相談していた。
「そうだな!楽しんで来い!」
 岡村は、かわいそうなことになったが、飼い主が見つかった以上仕方ないことだと思っていた。

 二 迷子犬
「課長、捜索願いって子犬のですか?」
 署内に響くほどの声をあげたのは、松任警察からこの四月から石川県警の中署に配属になったばかりの、渡瀬麻美警部補二十九歳、独身である。
「そうだ、捜索願いは大げさだが何でも大きくなる子犬らしいぞ」
 この中署の捜査一課の課長の間宮俊郎警部五十二歳、出世より家族が大事と言う人物だ。子沢山ということもあって奥さんには頭が上がらないと言う噂があった。しかし、いざと言うときは燃えると言う噂もある。
「何か事件に関係がある犬なんですか?」
「事件になったのは、迷子犬の届け出がされた翌日だ。犀川大橋交番署に届けが出されていた」
 間宮は、一課の刑事達に事件の内容を話して聞かせた。
「今朝、犀川の下流の方の桜橋の手前で発見された男は、胸をナイフような物で刺されま流されていた、その被害者が迷子犬の届け出していた、身元確認は犀川大橋の交番の巡査部長に確認済みだ。名前は松本宗一郎・六十三歳、住所は金沢市高尾台一丁目だ、高尾台中学の裏当たりだ。緊急連絡先は携帯電話の番号しか分かっていない!今の所手掛かりと言えば、被害者の家族と迷子犬だけだ!とにかく犬を見つける事から初めてくれ!それぞれ手分けして、ペットショップ、動物病院、あらゆる動物関係者に電話して、心当たりがないか、聞いてくれ」
 麻美と他の刑事達は、タウンページで探し始めていた。
「課長、有りました。昨日からそれらしい犬を預かっているそうです」
 先輩刑事の前川光男警部補こと、前さん・四十二歳がメモ取り間宮に渡した。
「笠舞の岡村動物病院か、ここなら犀川の上流になるし現場に近いな」
 間宮は、そう言って麻美を呼んだ。
「北島といっしょに犬が保護されている病院に行ってくれ」
「分かりました。北島君、笠舞の岡村動物病院に行くのよ」
 遅刻をしてドアを開けて入ってきた、北島雅也・二十七歳の腕を取り声を掛けた。
 この北島雅也は麻美の高校の後輩で、陸上部に一緒に所属していた頃からの腐れ縁であった。この北島にとっては学生の時から今も麻美は先輩であった。
「先輩、なんか張りきってませんか?」
 北島は、麻美がいつになく行動的な態度に、困惑していた。
「前さんは、被害者松本宗一郎の自宅に行ってくれないか、携帯電話の番号しか分からないので連絡が取れないでいる…頼むよ!他の者は手分けして聞き込みに回ってくれ」
 間宮の言葉で、一斉に刑事達は出かけていった。
「犬に、聞きに行くんですか?」
 北島は、麻美に聞いた。
「ばか、何で、犬がしゃべるのよ」
 麻美は、前川からの聞いた話をした、犬を拾ったのが小学五年生の男の子の二人で、子犬に血が付いていたことなどを話した。
「先輩、ここが岡村動物病院です。僕、駐車場に車を入れてきますのでここで降りて下さい」
 雨が降っていたので、北島は気を利かせ麻美を病院の玄関の前で降ろした。
 麻美は、岡村動物病院の中へ入っていった。
「こんにちには、中署の渡瀬といいますが、岡村先生いらっしゃいますか」
「はい、少々お待ち下さい」
 そう言って、受付にいた看護師の女の人が、奥へ呼びに入って行った。
「私が岡村ですが、お待ちしておりました」
 岡村が、奥の診察室から出てきたと同時に、北島がドアを開けて入ってきた。
「中署の渡瀬です。こちらは同僚の北島です」
 そう言って麻美は、警察手帳を岡村に見せた。
 岡村は、少年二人が昨晩血の付いた子犬を連れてきた事、その子犬がセントバーナードという種類で五、六ヶ月くらいの子犬であること、犬に付いていた血が人間の血液と言うことを調べて置いたことなどを事細かく話していた、そして今子供達と散歩に出てることを事を話した。
「分かりました、それで子犬に付いていた血液は何型何でしょうか」
麻美は、岡村に聞いた。
「O型の人間の血でした。こんな事件になるとは思わなかった物ですから、詳しくは調べませんでしたが、念の為にサンプルを残して置いただけですが、良かったらお持ち下さい」
 岡村は、そう言うとカルテとサンプルを差し出して来た。
「有り難うございます。さっそく署に持ち帰り調べてみます」
 麻美は、カルテとサンプルを北島に渡した。
「子供達は、何処まで出かけたんでしょうね」
 麻美は、少し遅いので岡村に聞いてみた。
「たぶん、犀川まで言ったんではないでしょうか。刑事さんがいらっしゃる事は言ってありますからもうそろそろ帰って来ると思いますけどね」
 岡村はそう言いながら、窓の外を見ていた。
 麻美と北島は、病院の待合室のソファに腰掛けて、二人が戻ってくるのを待った。
「あっ、戻ってきたようですよ」
 岡村は、駐車場に面した窓から、二人の姿を見つけた。
 良二と昇は息を切らせて、病院の中へ入ってきた。
「どうだった?思いっきり走ってきたか」
 岡村が、子犬を撫でながら二人に言うと
「はい、犀川まで行って来ました」
 と、息を切らせながら昇が答えた。
「そうだ、こちらがさっき言っていた、警察の人だよ。この犬の事で二人に聞きたいことがあるみたいなんだ」
 岡村はそう言うと、子犬を抱いかかえてソファに腰掛けた。
「僕たちも座っていいよ」
 麻美が、良二と昇を岡村の横に座らせた。
「まず、犬を見つけた時の事から、聞かせてくれるかな」
 麻美が聞くと、北島は手帳を出し、メモする準備を仕始めた。
「見つけたのは、良ちゃんです」
 昇はそう言うと、良二の方を見た。
「君が、子犬を拾ったんですか?」
 麻美が、良二の前にしゃがみ込み聞いた。
「怖がらなくてもいいんですよ。子犬と出会ったときの事だけ教えてほしいだけだから」
 麻美がそう言うと、良二か話し出した。
「おとついの夕方、犀川の河川敷を自転車で走って行こうと交番署の横から下に降りて走ってきたとき、この犬が飛び出して来て僕にぶつかってきたんだ」
 良二は、犬と出会った時のことを話した。
「それからどうしたの?」
「その時、橋の下に段ボールの家があったからそこへ入れて帰ったんだけど次の朝、心配になってエサをやりに来て昇が見たいと言うから夕方来て子犬に血が付いていたのを見つけたので、この病院に連れてきたんです」
 時々、二人が同時に話そうとするので、麻美は繰り返し聞きながらメモを取った。
「昨日、子犬を見に行ったとき誰か近くにいなかった?」
 二人は、顔を見合わせてから
「誰もいなかったと思います。マラソンをしていた人がいたけどすぐにいなくなったから分かりません」
 昇が麻美にそう言った。 
 麻美は、子供達は犬の事で精一杯でそれどころではなかったと察した。
「分かりました、今日は有り難う。また、聞きたいことが有るかも知れないけど協力してくれるかな?」
「はい、僕のお父さんがいつも言ってますから、市民の強力なくして犯罪の解決なしって」
「僕のお父さんは、何してる人?」
「警察官です」
 麻美は、何となくそんな気がした。
「ちなみに、何処におつとめかな」
「金沢の県警本部です」
 その時、北島が
「県警の小倉って言いました?」
 北島が麻美に聞き直した。
「そうみたいね。どうしたのよ?北島君、知っている人なの」
「先輩は、まだ配属したばかりで、知らないと思いますが、キャリアなのにキャリアらしくないと評判の良い人です」
「そう、今の世の中そう言う人は貴重よね」
「はい、僕も小倉本部長のような人になりたいです」
北島は、思いに吹けていた。
「北島君、貴方の理想はよく解ったから!」
 良二と昇は、麻美と北島の会話がおかしくて笑っていた。
「ところで先生、この子犬がの血が付いていた子犬ですね」
「はい、そうです」
「何か他に気づいたことは、ありませんか?」
「とくにこれと言っては…ありませんね。血の付いていたこと以外は、あっそうだ!昨日私の家で世話をしたんですが、子犬がひどく寝言を言ってましてね、まるで犯人を追いかけているような感じでしたね」
「この犬が、寝言を言っていたんですか」
 麻美は、犬の寝言ってどういうものか検討も付かないと思っていた。
「犬も猫も殆どの動物は、夢を見ると言われています、だからもちろんのこと寝言を言う事もありますよ、人間のようにね」
 岡村がそう言うと、麻美はただ感心するばかりに聞いていた。
「私も一度聞いて見たい物です。それでは最後に子犬の写真を念のために撮りたいので、よろしいでしょうか?」
 麻美が子犬を抱きかかえ北島がシャッターを切ろうとした。
「何…?」
 麻美が急に大声を出した
「クン、クン(かわいく撮ってね)」
「ちょっと、失礼します」
 麻美は子犬を抱いたまま、外へ出た。
「あなた?しゃべれるの?」
「僕が?」
「だって今話してるじゃない」
 麻美は子犬に聞いた。
「僕だって分かんないよ」
「分かんないって…」
 麻美は、何がなんだか頭がおかしくなったのではと思い、頭を降ってみた。
「何で、私!?犬語がわかるのよ…」
 麻美は、独り言を言ったつもりが
「僕もよく分かんないけど、そう言う人間がいるるかもな!」
 子犬が、また話かけて来た。
「どうしょう…。とにかく人が変に思うといけないから中に入るわよ」
 麻美は、子犬を抱いて病院の中に入っていって、写真を取り終えた。
「僕はオリバーって言うんだ。君は何て言う名前?」
「私は、渡瀬麻美、二十九歳、よろしく」
 麻美は、犬に自己紹介して自分がおかしかった。
「ねえ、麻美これから僕どうなるの?」
 オリバーが、不安そうに言葉を掛けて来た。
「私も、よくは分からないけど、あの子供達は君を飼うことが出来ないらしいし…。私がここから連れ出してあげようか?」
 麻美は、少し考えを浮かばせていた。
「先輩、何、犬と話してるんですか?」
「えっ?そう見えた?」
「だって、今……」
 麻美は北島に対して、どうごまかせばいいか混乱していた。
「麻美、落ち着けよ」
 オリバーが、耳元で囁いた。
 麻美は、この犬を連れて行って、直接聞けば事件解決が早い! 私の初手柄になるかもしれないと思った。
「先生、この子犬の事なんですが、今日の所は私どもで預かって行きたいのですがよろしいでしょうか?確認をしたいこともありますので」
 麻美はとっさに、言葉が出ていた。
「私は構いませんが、この子達が拾って来た子犬ですからね…」
 岡村はそう言って、良二と昇の顔を見た。
「僕…飼うことができないから、いいんだけど。でも飼い主の人は来ないんですか…」
 良二は、麻美に聞いた。
 麻美は、言葉を詰まらせた。
 この子達に殺人事件の事を話して良い物だろうか迷ったが、
「実はこの子犬の飼い主は、昨日亡くなってしまったの」
 麻美がそう言うと
「それじゃ、この犬はどうなるんですか」
 昇が聞いた。
「そうね、しばらくは私が世話をする事になると思うけど、そのうち誰か貰ってくれる人を捜さないといけないわね」
 麻美が良二と昇に答えた。
「刑事さん!優しい飼い主の人を見つけてやって下さい」
 良二がそう言った。
「先輩って、子供と犬にはやさしいんですね」
 北島が麻美と子供達のやり取りを見てそう言った。
「子供と犬だけじゃないわよ」
 麻美が北島にそう言うと
「先輩、僕はそんなつもりで…」
 北島は、弁解をする暇もなく
「北島君、帰るわよ」
 麻美が、岡村に御礼を言って病院のドアを開けた。
「君たち、子犬に会いたかったら連絡ちょうだい、私は中警察署の渡瀬と言うの、電話をくれればいつでも子犬に会わせてあげるからね」
 麻美は良二と昇にそう言って名刺を渡して車に乗り込んだ。
 麻美と北島は、オリバーを乗せると中署に向かった。
「僕、どうなるんだよ…麻美」
「今、考えてるんだから話しかけるなって」
「先輩、さっきから何か変ですよ」
「いいから、君は運転に集中して!」
「はい、分かりましたけど…」
 北島は首を傾げて、更年期障害にはまだ早いのに…と勝手なことを想像をしながら運転をしていた。
中署に戻って、間宮のデスクの前に立っていた。
「おい、誰が犬まで、連れてこいと言った」 間宮は、呆れた顔で怒鳴ってきた。
「だって…」
 麻美は、弁解しょうとした
「だってもへちまもない。その犬をなんとかしろ」
 間宮は、犬を手であしらった。
「課長、ひょっとして犬が苦手なんですか」
 麻美は、間宮の態度に微笑みながら言うと
「誰にだって苦手な物はあるもんだ」
 間宮は、犬が苦手と言うより、生まれ持って触ったことがないというのが実状らしかった。
「課長、触ってみれば分かりますよ、ふわふわしててとてもかわいいですから、」
 麻美は、間宮の膝の上に強引にオリバーを置いてみた。
 間宮は、まんざらでもない顔をして、こわごわと頭を撫で始めた。
「どうですか?なかなかのものでしょ。動物って人を見るって言いますから、きっと課長の人柄の良さが、この犬に分かるんですよ」
麻美はオリバーに合図を送ると、間宮の手をなめてみせた。
 間宮はまんざらでもないと言う、態度を見せた。
「渡瀬、この犬をどうするんだ?」
 間宮は、オリバーの顔を見ながら言った。
「課長、今日この犬を自宅に持って帰りたいのですがいいでしょうか」
 麻美は、病院で岡村獣医師と子供達から聞いた話、犬の飼い主が死んだ被害者の松本宗一郎の可能性が高いのではないかと間宮に話した。
「そうだな…渡瀬。おまえがそれで良いのなら、しばらく預かってくれないか」
「しばらくって、いつまでですか?」
「飼い主が、はっきりするまでだ」
 麻美は、オリバーをこのまま飼うことになるのではと直感が走った。
「渡瀬、今日はその犬がいるから、もう帰っていいぞ、何か変化があったら連絡するから」
 間宮は、そう言いながらオリバーに愛情を感じたのか財布から千円札を一枚出し、犬の好きな物でもと差し出してきた。
「課長、有り難うございます、さっそく帰りに何か買って帰ります」
 麻美は、間宮の言葉に甘えて早めに帰宅をする事にした。
 麻美はオリバーを自家用車に乗せるとペットショップに寄り道をして、ジャーキーという犬のおやつを買った。
「ただいま!」
「あら、早かったのね。どうしたのその犬?」
 玄関に出迎えに出てきたのは、二歳年上の姉、渡瀬亜里沙、三十一歳であった。
「この犬は、参考人みたいな者だから、親切丁寧に世話しないといけないの」
 麻美は、冗談半分にそう言った。
「参考人って、どういうことよ?」
「後でゆっくり説明するから、何か食べる物を用意して上げてくれない」
 麻美は、ペットショップで買ってきた袋を亜里沙に手渡した。
 麻美の家は、財閥とはいかないまでも、祖父の時代からホテルやワイン工場を経営しているそれなりの金持ちである。
 長女である亜里沙が、会社の跡継ぎに決まってからは、麻美は警察官として生きるか?結婚するかを決めるだけになっている気ままな人生を送ろうとしていた。
「姉さん、今日は家の中が静かだけど、みんなどこかに出かけてるの」
 亜里沙は犬の食事を作りながら、オリバーと話しをしているみたいだった。
「ちょっと、姉さん犬語がわかるの?」
 麻美が聞くと
「分かるわよ。私、物心付いたときから分かるようになっていたみたいなの」
 亜里沙が呆気なく言うと
「私なんか、さっき分かるようになったばかりなのに…」
 麻美は、ひょっとしてこの家の家族全員犬語が分かるのではないかと、姉の亜里沙に聞いてみた。
「多分、私と麻美だけだと思うけど、両親にも聞いたことないしね」
「どうして、私達なの?」
 と、姉に聞いたが、亜里沙の返事は、
「私にも分からないのよ?でも、他人には内緒よ。言えば人の付き合いが変わってくるから、私昔ね、友達に話したことがあったの、その時、友達ったら何て言ったと思う?」
「どう言われたの?」
「それって、商売になるんじゃないって言うのよ。私、ショックでその時の友達とはそれっきりお付き合いはしてないわ」
 麻美は、姉の友達っていいとこ付いてくると感心してた。
「まさか麻美、あなたもそう思ったんじゃないでしょうね…」
 亜里沙が、怖い顔して言ってきた。
「まさか、この私を誰だと思ってるんですか」
 麻美は、ドキッとした
「ねえ、静かね。誰もいないの?」
「何時だと思ってるの、まだ仕事している時間でしょ」
 麻美は、自分が間宮の好意で早退したことをうっかり忘れていた。
「そうだったわ、だったら私先にお風呂に入って来ても良いかな?その間、オリバーにエサを上げてくれる」
 麻美は、そう言ってバスルームに入っていった。
「ありさ、ありさ、僕お腹が空いたんだけど」
 オリバーがエサの催促をするように、言った
「ごめんなさい。何にもないけどこれ食べて」
 そう言って、亜里沙が出してきたエサは、ステーキのミディアムだった。
「何もないって、こんなごちそう初めて食べたよ」
 オリバーは、噛まずに飲み込むように食事を済ませた。
「そう、良かった。喜んで頂いて私も作った甲斐があったわ」
 オリバーは、この家のペットになれたらなあ…と、想像した。
「ねえ、オリバー君、あなたどんな事件に関係してるの」
 オリバーは、少し間を置いて
「僕の爺ちゃんが…、死んだんだ」
「まさか、そのお爺さまが殺されたんじゃ」
 と亜里沙が言うとオリバーは頷いた。
「僕1人ぼっちになったんだ。麻美は僕が犯人を知ってるからここに連れてきてくれたと思うだけど、今は悲しい…」
 亜里沙は、オリバーを抱きしめた。
 オリバーは、亜里沙はやさしい人だと思った。
そして、初めて麻美に声を掛けた時の事を話した。
「麻美ったら、びっくりして目をまん丸にしてたよ…。だけど僕も麻美の顔を見て、びっくりしたよ」
 そう言ってオリバーと、亜里沙は大きな声で笑っていた。
「なんか、楽しそうね」
 麻美が風呂から上がってきて笑っている訳は分からなかったが、オリバーの楽しそうな様子を見て少しホッとしたと思った。
「さぁ、夕食の支度をするから麻美も手伝ってね」
「わかった、でも料理以外のお手伝いしか、駄目よ」
「分かってるわよ。私もまだ死にたくないもの」
「ひどい言い方するわね、オリバーどう思う?」
 麻美がオリバーに聞くと
「亜里沙の料理は美味いよ」
 オリバーは、ステーキが一生忘れられない味であると思っていた。
「オリバー、姉さんに何作ってもらったの?」
「ステーキ!」
 オリバーは、よだれがでるのを我慢しながら、麻美に答えた。
「そんなご馳走を食べたの?、でも、毎日そんな物ばかりだったら、栄養のかたよりで病気になるから野菜も肉と一緒ぐらいの量を食べないとだめなんだからね」
「僕は、人間じゃないからいいんだよ」
 まるで子供の喧嘩だった。
「二人とも、やめなさい。麻美にもステーキを焼いてあげるから」
 麻美は、僕が羨ましかったんだ。「子供だな」とオリバーは、思った。
「オリバーより、大きいの頼むわね」
「まだ、言ってる」と、呆れるオリバーであった。
夜七時が過ぎ、麻美達の両親が帰ってきた。
「おかえりなさい」
 玄関にオリバーも、向かえに出ていた。
「おう、犬がいるじゃないか。どうしたんだ」
 亜里沙は、食事を取りながら両親に説明した。
「そうか、早く元気をだすんだよ。オリバー」
 父親の渡瀬裕一郎、五十八歳は、オリバーの頭を撫でながら言った。
「どうして、この犬が名前が分かったの?」
 麻美が、まさかじゃないでしょうねと言う顔をして聞いた。
「この犬が、さっき自分でオリバーといいます。お世話になります。よろしくって、あいさつしてきたからだよ」
「じゃあ、お父さんも犬語が、わかるの」
 そこへ母親の文子が入ってきて
「結婚する前から、そんなおかしな事言って私をからかうのよ」
「お母さん、それはからかってるんじゃなくて本当に犬語が分かるんだから」
 麻美が今日初めて犬語が、理解出きるようになった話しをした
「そんなに、私をからかって面白いの!」
 そう言って、文子は信じようともしなかった。
「母さんには理解できそうもないんだからこのままにしておきなさい。その方がオリバーもここに居やすいから」
「分かりました。ところで姉さんと違ってどうして私は今頃になって動物の声が聞こえるようになったの?」 
 麻美は、父の裕一郎に聞いてみた。
「亜里沙は、いつ頃から自分にそんな力があると分かったんだ」
 裕一郎は、亜里沙に聞いた。
「私ですか、子供頃には違いないのですがいつの間にかというのが、本当のところです」
 亜里沙は、本当にいつ頃からと言われても思い出せないくらい昔の事の様であった。
「私は、五歳ぐらいの時に近所のハトが話しかけてきて父に話をしたら、おまえ達のお爺さまだが…訳を聞かせてくれたんだ」
 裕一郎は、麻美と亜里沙に食後自分の書斎に来るように言うと先に書斎に入っていった。
「姉さん、私と姉さんの違いって何だと思う」
 いきなり麻美が、亜里沙に聞いてきた。
「何が違うと言われても、色々あるでしょうけど、そうね…」
 亜里沙が後かたづけをしながら考えていると
「全然違うよ!」
 オリバーが、麻美の足元でそう言った。
「オリバー、何処が全然なのよ」
 麻美が、しゃがみ込みオリバーの顔を両手で挟んで聞いた。
「だって、亜里沙は優しいし、料理が旨い、何より美人だ」
 オリバーが苦しそうな声で答えたら、
「最初の二つは分かるけど、三つ目の美人だしと言うのは違わないでしょうが、オリバー君!」
 麻美は、今度はオリバーの首輪に手を入れオリバーが動けないように捕まえながら言うと、
「僕は、思ったことを正直に言ったまでだよ」
 オリバーは、あくまでも麻美に反抗的に答えた。
「二人ともやめなさい」
 亜里沙が、麻美とオリバーを叱りつけた。 オリバーは、亜里沙の後ろに回り
「麻美が、何処が違うか分かんないと言うから、教えてあげようとしただけだよ」
 オリバーが、亜里沙に弁解仕始めた。
「オリバー、姉さんを見方に付けるのよ」
 麻美が、オリバーを捕まえようとしたら、オリバーは裕一郎の書斎の前まで逃げて行った。
「麻美、お父様に聞けばどうして貴方と私が違ったのか分かると思うわよ。だから自分でちゃんと確かめれば良いでしょ?」
「そうね、姉さん一緒に書斎に行きましょ」 麻美は、亜里沙とオリバーと父の書斎に入っていった。
「もう、用事は済んだのか?」
 裕一郎が、書斎の椅子に腰を掛けて待っていた様子だった。 
「それでは話そう。これは、お父さんがおまえ達のお爺さんから聞いた話なんだが、ノアの箱船って知ってるか?
「ノアの箱船ってあの聖書に出てくる?」
 麻美がそう答えると、
「そうだ!その船に神様が選んだ義にかなったノアの妻、息子の三人とその妻達が船に乗りこの地上にいる生きている動物達をつがいで助けるように命じ、四十四夜間動物達の世話をさせ守ったという話しがあるんだ。
その時、神様は二度とこのような大洪水を起こさないと約束し、雲の中に自分の虹を与え神様と地の契約の印をおいたとされているんだ。」
「へぇ~。虹ってそう言うように伝えられていたんだ、私知らなかった!姉さん知っていた?」
 麻美が、亜里沙に聞くと。
「知っていたわ。昔よくお爺さまに教会に連れていってもらったし、話をしてもらったもの、そう言えば麻美が二年の時にお爺さまが亡くなったのよね」
 亜里沙が、懐かしそうに話した。
「私は、お爺さまの話てくれた事なんて覚えてないわよ」
 麻美がそう言うと、
「おまえは、教会へ行くのが嫌だと言っては、よく隠れて出てこなかったからなぁ」
 裕一郎は、困った奴だと言わんばかり麻美に言った。
「そうだったの。それも覚えてないわ」
「まぁ良い、話の続きを始めるぞ」
 裕一郎が、話始めようとした頃、
「僕、神様の事知ってるよ」
 オリバーが裕一郎に言った。
「そうか。やっぱりそう言う事だったのか!」
 裕一郎は、オリバーが麻美に声を聞かせたことに納得でもしたように答えた。
「お父さん、どういう事?やっぱりって」
 麻美が、真剣な顔で父に聞いた。
「亜里沙も私も小さい子供の頃に気づいた事を、どうして麻美だけが今頃なんだろうと思って不思議だったんだが、その意味がやっと分かったよ」
 麻美は、裕一郎の言葉を唾を飲み込むのも停めて聞いていた。
「麻美、おまえはこのオリバーを初めてみた時、どう思った!」
 裕一郎が、麻美に聞いてきた。
「どうって、バカでかい子犬だと思ったわよ」
 麻美が、そう答えると
「バカでかくて悪かったな!」
と、オリバーが唸った。
「だって本当にそう思ったんだもの…仕方ないでしょ」
 麻美がそう言うと
「他にはどう思った?」
 裕一郎が、言うと
「そうね、この子犬が被害者の犬だったら、これからどうなるんだと思うと何か可哀想になって、心のどこかで私が引き取ってもいいかなぁと思ったわ。今は違うけど!」
 麻美は、オリバーの顔を見ながら答えた。
「麻美は、今まで動物を見て可哀想だとか、自分の物にしたいと思ったことが無かったのか?」
 裕一郎にそう言われて
「無かったわよ、だって子供の頃に犬に追いかけられ足を噛まれたことがあったせいか動物が苦手だったもの」
「麻美、それだよ。おまえが今になってオリバーの声が聞こえるようになったのは、生まれて初めて動物を哀れむ気持ちがもてたものだから、今になって先祖が残していった力がおまえに加わったんだよ」
 裕一郎が、そう言うと
「ちょっと麻美、貴方今まで犬や猫を見てもかわいいとか、飼ってみたいとか本当に思わなかったの?」
 亜里沙が、信じられないという風に聞いてきた。
「だって、全然興味が無かったし、この家で動物なんて飼ったこと無いじゃないの」
 麻美が、そう答えると
「確かにこの家では動物を飼うのを避けてきたからな。実はお母さんは私が動物と話が出きると言ったせいで、亜里沙がどんなに犬を飼いたいと言っても気持ちわるがって反対してきたからな」
 裕一郎は、腕を組みながらそう言うと
「だったら、私の生じゃないじゃないの」
 麻美が、裕一郎と亜里沙にそう答えた。
「それにしても不思議な子ね、麻美は」
 またまた、亜里沙は感心していた。
「僕のおかげだね」
 オリバーがそう言うと
「有りがた迷惑だったりして!」
 麻美が、オリバーに言うと
「麻美もオリバーも似たもの同士だな」
 裕一郎が微笑みながら言った。
「お父様、それでどうして私達だけが、こんな力が有るのかしら」
 亜里沙が裕一郎に聞いた。
「これは先祖が残して言った話らしいんだが、何代も続いている家だが、いつから始まったか分からないほど大昔から血が絶えたことが無いことは知ってるいるだろ!」
「私、知らなかったわよ。姉さん」
 麻美が言うと
「麻美には言ってなかったが、この家の跡継ぎが出来たときだけに話をすれば良いと言われていたからな。亜里沙にも結婚して子供が出来た時点で話そうと思っていたから、詳しいことは言ってないがね」
「私が結婚して子供が出来たら、やはりその子供にも同じ力が…」
 麻美がそう聞くと
「結婚できてから考えろよ!」
 オリバーが言った。
「分かったわよ、一々うるさいわね」
 麻美とオリバーの言い合いが始まろうとしたとき
「お父様、この子達を無視して良いから続きを話して下さい」
 亜里沙がそう言いだした。
「そうだな、どうして、私達の血族にだけが動物の声が聞こえるというと、ノアの子孫の血を耐えさずに現在まで至っている言われてきたからだよ。だから亜里沙にはどうしてもお婿さんを貰ってもらって早くこの家を継いでもらわないとな」
 裕一郎は亜里沙に向かって言った。
「姉さん、凄くプレッシャーを感じるんじゃないの?」
 麻美が、亜里沙の顔を見てそう言うと亜里沙は何も言わず、書斎を出ていった。
「おい、麻美!亜里沙をいじめんなよな!」
 オリバーが、麻美にそう言って唸り始めた
「別にいじめてなんていないけど、ちょっとショックだったのかな」
 麻美が、オリバーにそう言った
「麻美、これはどうしょうもないことなんだ。私は亜里沙が見つけて来た人なら反対をするつもりはないから、誰か好きな人が出来れば早く紹介してほしいくらいなんだよ」
 裕一郎が、麻美にそう言った。
「お父さん、姉さんの事はもう少し様子を見てから、私が何か聞き出すわよ」
 麻美は、そう言うとオリバーを連れて書斎を出ていった。
 麻美とオリバーは何もなかったように、亜里沙がいる今へ入っていった。
「姉さん、お父さんの話どう思う?」
 麻美は、亜里沙にそう言いながらソファに座った。
「お父様がああ言うのだったら、素直に受け止めないといけないと思うの!それにどうしょうもないでしょう!犬語が分かるって楽しいじゃないの?」
 亜里沙は、しっかりと現実を受けとめていた。
「姉さん、一つ忘れてない?お父さんは神様に選ばれた動物っていったのよ。そうでしょう。だったら、世界中に私達と会話ができる動物がいるということなのよ、分かってるの?」
「そう言うことね、どうしましょう?ライオンに声駆けられたら?」
 亜里沙は、今まで想像もしなかったことに困惑していた。
「姉さん少し、飛躍し過ぎじゃないの?」
「そうかしら?それより麻美、オリバーに何か聞いてみた、飼い主さんのこととかどこに住んでいたとか」
「それなんだけど…オリバーの飼い主は、殺されたからいないし、他に飼い主を探さないといけなくなったのよ」
 麻美がそう言うなり、亜里沙は即座に
「じゃあ、この家で飼って上げればいいんじゃないの」
 麻美は、亜里沙はオリバーを気に入ってる様子だし、両親なら亜里沙の説得であればきっとイエスと言ってくれるような気がしていた。
 ここは、もう少し様子を見てから、結論を出してみてもいいと思った。
「姉さん、もし飼い主が現れなかったら、お願いするかもしれないから、その時はよろしくね」
 麻美は、その時が来たら姉に頼むことにした。
「さぁ、もう眠くなってきたから、部屋に戻るけど、オリバーは何処で寝たい?」
「僕、どこでもいいよ」
 遠慮しているオリバーが、いじらしくて、かわいかった。
「それじゃぁ、私と寝る?」
 と、聞いてみた
「亜里沙と寝たい」
 と答えた。
 姉さんと私は、どこが違うんだと思ったが、犬と一緒に寝ると言う経験したことが、無かったので、あっさり身をひいた。

 三 オリバーの決心
「麻美、起きて」
 耳元で囁くような声で
「麻美、朝だよ」
 麻美は、毎日、目覚まし時計で起きるのを、習慣にしていたので、夢を見ているようだった。
「起きて!」
 今度はベッドが揺れだした。
「えっ、地震か?」
 びっくりしてベッドを飛び出し、廊下に出ていた。
「何やってんだよ。僕が起こしに来ただけだよ」
 足下にオリバーがちょこんと座っていた。「やっぱり、昨日のことは夢じゃなかったんだ…。」
「おはよう、オリバーは、早起きだね」
 麻美は、オリバーを連れて階段を下りていった。
「麻美に話があったから、早く起こしたんだ。僕は犯人の臭いを覚えているんだ。それに僕が爺ちゃんの所へどうして貰われて来たか、爺ちゃんがよく話してくれてた」
「あなた、被害者の前にも飼い主がいたんだ…、それから?」
 麻美は、真剣な目をしてメモを取り出した。
「僕の一番最初の飼い主は、女の人でその人が僕を爺ちゃんの家に連れて行ってくれて、(今日からこの人が、貴方のお父さんだよって)言ったんだ!それから僕と爺ちゃんは、いつも一緒にいるようになって、名前も爺ちゃんが付けてくれた。何日か経った頃、爺ちゃんが(おまえの前の飼い主が死んだんだよ!大変なことになった!おまえを隠さないといけなくなった!)と言って、僕を夜遅くにあの川の家に隠そうとしたとき、爺ちゃんが誰かに連れて行かれたんだ!僕、その後を付けていったんだけど、爺ちゃんは血だらけで倒れていたんだ!そして爺ちゃんが僕を抱いて(朝になって明るくなったら、ここを人間の子供が通るから、クンクンと言って助けを求めるんだ!きっと助けてくれる人が現れるから…)」
 そう言うと、オリバーは言葉を詰まらせて泣き出した。
 麻美は、きっと松本さんは子供ならオリバーを保健所には持って行かないと予感して、そう言ったんだろうと思った。
 それが松本さんのオリバーへの最後の優しさだったんだと思った。
「オリバー!きっと犯人を見つけて上げるから、男の子でしょ!泣かないの」
 麻美は、オリバーを何と言って慰めれば良いか言葉を探していた。
 その時、オリバーが
「僕にも手伝わせて!僕が知っているって言っても誰も信じてくれないから、麻美の手で逮捕してよ!」
 オリバーは、麻美に近づき立ち上がって前足を差し出して見せた。
「気持ちは分かるけど、私みたいな新米じゃ自由に捜査させてくれるはずがないし、第一、犬を連れて捜査をするなんて言ったら課長に何て言われるか?」
 麻美は、間宮に何て言えばいいか考えていたが、ここは姉に知恵を借りようと朝食の支度をしている亜里沙の元へ相談しに行った。
 麻美は、オリバーの決心を亜里沙に話していた。
「そうね…犬だから犯人の臭いを嗅ぐことが出きるとでも言えば、課長さんも少しは聞く耳位は持ってくれるんじゃないのかしら。現にオリバーは犯人の臭いが分かるんでしょ?」
 亜里沙が、オリバーの顔を見て言うと
「僕は犯人の臭いを絶対忘れないもの!」
 オリバーが、亜里沙に悲しそうな声で答えた。
 さすが姉さんは頼りになると思った。
「オリバー、さっそく捜査開始よ、あなたもいっぱい食べて、元気を出さないと」
 とりあえず今日は、自分一人で出勤してみて周りの様子を伺おうと思った。
「オリバーは、このまま家で留守番していて何かあったら電話するから、姉さんの言うことをよく聞いて待っていて!」
 麻美は、そう言って出かける準備を始めた。
「姉さん、オリバーの世話を頼みたいんだけどいいかな?」
「何言っているの!オリバーはもう家族の一員だと私は思っているわよ!それより早く犯人を見つけてあげてね」
 麻美は、亜里沙がオリバーの世話を気持ち良く引き受けてくれたので安心したと同時に、このままオリバーが居着いちゃったらどうなるんだろうと心配でもあった。
 麻美は、とにかく中署に行きどんな手掛かりでも見つけてあげないといけないと思った。
「姉さん、何かあったら携帯電話にかけて!私もちょくちょく電話を入れるようにするからお願いします」
 麻美は姉にそう言うと、食事を済ませると早々に車に乗り込み車庫から出ようとしたとき父の裕一郎が、オリバーのリールを引いて出てきた。
「麻美、今からオリバーと散歩に行ってくるよ、最近ちょっと太り気味だし、これからは、私がオリバーの朝の散歩を引き受けるよ!だから、心配せずに頑張って来なさい、じゃぁな!」
 裕一郎は、そう言ってオリバーのリール引っ張りながら走っていった。
 麻美は、父がオリバーに同情してくれているのが嬉しかった。

「課長、おはようございます」
 麻美が、元気よく挨拶をしながら、ドアを開けた。
「何が?おはようだ!」
間宮にそう言われて時計を見ると、十分の遅刻をしていた。
「昨夜、あの犬は盗まれた自分の犬だから、返してほしいと言って来た男がいるんだ。その男がもうすぐ来るから、事情を聞いてくれないか」
「オリバーの飼い主は、殺された松本さんじゃ…ないのですか?」
「渡瀬、オリバーって名前を付けて情が沸いたのは分かるが、あの犬が殺された被害者の物だと言うことはまだ、はっきりしていないんだぞ!」
「本当に持ち主かどうか、私がこの目で確かめた上で判断させて頂いても構いませんか?」
「まぁ、そこは君に任せるけど慎重に頼むぞ」
 麻美には持ち主で無いと言い切れる、見極める自信があった。
「しかし、何度も言うが飼い主と分かったら…」
「分かってます!私も警察官ですから、人の物を取ったりはしません」
 麻美はオリバーが言っていた元の飼い主は、殺された爺さんの知り合いで今は死んで居ないと言う事を思い出していた。
 それなのになぜ、飼い主だって言って来たのか、麻美には疑問だった。
 何は訳ありだと言う事は、想像はついていたが、どう切り出せば良いか考えていた。
 すると、ドアをノックして五十過ぎの男が入ってきた。
「昨日、犬のことで電話をした浜井という者ですが」
 麻美は、その浜井というその男を仕切りしてある、隅っこに置いてある小さなテーブルとソファまで案内した。
「どうぞ、こちらにお掛け下さい。私が犬を担当しています渡瀬と言います」
 いつから犬担当が決まったか自分でも驚いた。
「さっそくですが。あの犬の飼い主さんだと言う、証拠みたいな物がございましたら提示して頂けませんか」
「証拠になるかわかりませんが、これを持ってきました」
 男は、スーツの上着の内ポケットから、封筒を出し、机の上に置いた。
「中身を拝見します」
 麻美は封筒を手に取り、三つに折り畳んだ厚みがかった紙を出した。
「これは、子犬の写っている写真ですが、これがあの犬だと言う証拠には、ちょっと無理があると思いますが」
 麻美は、証拠と言う言葉を連発していた。
「刑事さん、証拠、証拠と言いますが、何か私を疑ってかかっているのとしか思えないのですが」
 男は苛立ちにも見える口調で、食ってかかってきた。
「いいえ、私はもっとハッキリとした物が無いかと思ったからです。何しろあの犬は殺人事件に関係していて、犯人を見ている可能性がありますから」
 男は殺人と言う言葉に顔色一つ、変えるず席を立とうとしていた。
「分かりました!それでは気の済むまでお調べ下さい。調べが終わったら返して頂きますのでよろしいですか?刑事さん」
「それでは、ここに名前と住所、電話番号を書いて下さい。はっきり分かりましたら連絡しますので」
 麻美はそう言って、事務手続きを終えると、ドアを開け丁寧に見送った。
「どうだ、飼い主だったか」
 間宮が、声を掛けてきた。
 麻美は間宮のデスクの前に立ち、さっきの男が書いて行った住所録を差し出して見せた。
「名前と住所、それに連絡場所を書いて貰いましたが、ただ自分の犬だと言い張っているだけで……課長、何か?」
 麻美がそう言ってると、間宮は
「この浜井保と言う男だが、どこかで聞いた名前なんだが…」
 間宮は、腕を組みながら考え出した。
「とにかく課長、本当にあの犬が浜井の犬なのか詳しく調べてみます」
 麻美は、そう言ってデスクに戻りとにかく姉に電話して、この状況を伝えてオリバーに心当たりが無いか聞いて貰うことにした。
「ねぇ、オリバーは何て言ってる?」
 麻美は、亜里沙に浜井と言う男の人相まで事細かく話した。 
 亜里沙は、受話器を持ったままオリバーに伝えた。
「どう?オリバー、何か覚えてる事ある」
「僕、そんな人知らないよ! 」
 オリバーは、いつの間にか亜里沙の手に持っている受話器を耳に当て話始めていた。
「麻美、聞いてる!」
 亜里沙が、受話器の向こうからなかなか返事が帰って来ないので、大きな声で叫んでいた。
「聞こえてるって!電話でも犬語が分かるんだと思って感心したのよ。オリバーの言う通りだとしたら、益々、怪しくなってきたわ、後で何か気づいたら電話掛けて!携帯電話の方がいいわ!今から外に出るから」
 麻美はそう言って、電話を切った。
「北島君、さっきの浜井保の身辺を洗いに行くわよ」
 麻美は北島に声を掛け、間宮のデスクの前に立っていた。
「課長思い出せ無いんですか…?今から浜井の周辺の聞き込みに言って来ますが、何か思いだしましたら電話下さい」
 麻美が、間宮に言うと右手を軽く挙げ分から早く行けと言わんばかりに、いすを回転させ背中を向けて手を振っていた。
「課長、相当気になってるみたいね」
 麻美が北島に言うと
「余程、昔の事なんじゃないですか?さっき机の中からノートを出してきて熱心に見てましたよ」
 そんな話をしながら、浜井の住んでいると言う金沢市の隣に面する、松任市千代野と言う住宅街に向かった。
「先輩、住所はこの当たりになっていますが、こんなに密集していたら探すの大変ですよ」
 北島が嘆くのも当たり前かもしれないと、麻美は思った。
 このあたりは、十五年程前から住宅が建ち始め、住民でさえ迷う事があると言う噂がある有名な住宅地だった。
「誰かに聞いた方が早いかもしれないから、手分けして探しましょう」
 二人は、左右別々に別れて聞き込みを始めた。
 麻美は、前方から走って来た郵便局のバイクを止めた。
「お仕事中すいませんが。この当たりに浜井保と言う名前の家知りませんか?」
 郵便職員は、バイクを止め麻美が差し出した住所を書いたメモを見て、
「ああ、この住所でしたらこの区画の裏手にありますよ。大きな犬が四匹位、門のところにつないであるからすぐに分かりますよ」
 そう言って、郵便局のバイクは走っていった。
 さっそく、麻美は北島の携帯電話に連絡した。
 麻美は、浜井の家の前で北島を待つことにした。
 犬が門の中に二匹、門に二匹どれも大型犬で色々な種類の犬がつないであった。
 麻美は試しに犬に話かけてみた。
「あなた達の飼い主さんていい人ですか?」
 麻美は一番大きな犬に話かけた。
「いい人だよ!僕たち、パパのこと好きだよ」
 どの犬もうなずいているように見えた。
「じゃぁ、オリバーって子犬知っているかな?」
 麻美は犬達全員に向かって聞いてみた。
「知らないよ。子犬なんて何年も見たことないよ」
 麻美は、やっぱり浜井は嘘を付いていると思った。
「先輩、探しましたよ」
 北島は、十分程遅れてやって来た。
「行くわよ!」
「行くって、まだ聞き込み終わってませんが…」
「聞き込みは済んだから帰るの!」
 北島は、何が何やら分からないまま麻美の言うとおり、車の駐車してある所までやって来た。
「先輩いつの間に聞き込みしたんですか?」
 北島は、もう一度麻美に聞いてみた。
「いつの間にって、あなたがなかなか来ないから、私1人で聞き込みしてたのよ」
 麻美は、まさか門のところで犬達に聞いたとも言えないので北島が遅かったのを理由に話した。
「それで聞き込みの成果はどうでした?」
 北島は、メモを取ろうと手帳を出した。
 麻美は犬達が話してくれた言葉をいかにも、人間が話していたかのように北島に伝えた。
「そう言う事でしたら、あの浜井保はなぜ自分の犬だと言ってきたんでしょうか?」
「そうなのよね、浜井の家には犬達が四匹もいるのよ。ましてや殺人事件に関わっている犬だと分かっていてもほしがっているんだから何か変よね」
「僕もそう思います」
 北島もこれはどう、考えてもおかしな話だと思った。
 その時、北島の携帯電話が鳴った。
「はい、すぐに署に戻ります」
 間宮からの電話であった、浜井の素性が分かったから詳しいことは署に帰ってからと知らせてきた。
「先輩、課長からすぐに戻るようにと言ってました」
「分かったわ。とりあえず署に戻りましょう」
 麻美と北島は、車に乗り込もうとしたとき、
「あのう、警察の方でしょうか?」
 北島に老婦人が、運転席の車の窓を叩いて聞いてきた。
「はい、そうですが。何でしょうか?」
 北島は運転席から降り、老婦人の話を聞こうとした。
「いえね、さっき浜井さんの家の前にいたでしょ。ちょっと気になることがあったから、話をしておいた方がいいと思って!」
 北島に声を掛けてきた老婦人はこの近所に住んでいる、矢吹房江と名乗った。
 矢吹房江は意味ありげにヒソヒソ話しで、北島に近寄ってきた。
「何が、気になるんですか?」
 北島も合わせたように、小さな声で聞いていた。
「浜井さんの奥さん、近頃見なくなってご主人に殺されたんじゃないかって言う人もいるぐらいでして…。だっておかしいでしょ、病死か事故死で亡くなっていたら葬式ぐらいするでしょ?それに奥さんは近所づきあいのいい人でしたから私達も心配でご主人に聞いてみても亡くなったとしか、おしゃらなかったものですから…」
 矢吹房江は、長々と話し出したので北島はよくある近所の井戸端会議を聞かされているんじゃないかと思った。
「分かりました、急いで署に戻らないといけないので、他に気づいた事がありましたらご連絡ください」
「失礼ですがお宅のお名前は?」
「私は、中署の北島といいます」
 北島はそう言って、名刺入れから名刺を出し、手渡して矢吹房江の名前と住所をひかえて車に乗り込もうとした。
「刑事さん、もう一つ良いですか。二ヶ月前に浜井さんの奥さんが車に犬を連れて行くのを見たんですが、その犬は浜井さんの家で飼っているのより小さかったので、また、一匹増えるのかと思っていたんですが、増えてる様子もないしどうしたんだろうと思っていたんです。それが奥さんの姿を見た最後だったもの、だから気になりましてね」
「子犬…!」
 麻美はそう言いながら、車内の中から出てきた
「北島君、さっき子犬がどうとか言ったわよね」
 麻美が、矢吹房江の顔を見ながら聞いた。
「はい、この矢吹さんが二ヶ月前に浜井の奥さんが子犬を連れているのを見たそうです」
「北島君、事情は私が聞いて置くからとりあえず貴方は署に戻っていてくれる。課長が待っていると思うから」
「そうですね。遅くなるとまた怒鳴られそうですし…」
「浜井の事は後で電話で知らせてくれればいいから」
 麻美が、そう言うと
「先輩、帰りはどうするんですか?」
 北島が聞くと
「この住宅の入り口にバス乗り場があるから、バスに乗って帰るわ」
 北島は麻美がそう言うので矢吹房江に麻美を紹介して車に乗り、署に帰っていった。
「矢吹房江さんですか?」
 麻美は北島が取ったメモを見ながら聞いた。
「はい、矢吹です。貴方も刑事さんなんですね」
「中署の渡瀬といいます。犬の事で何かご存じだとか聞こえたのですが」
「犬? 奥さんが抱いていた子犬のことですか。私は奥さんが殺されたんじゃないかと思ってお知らせしたんですが?」
 房江は、犬のことより人間のことの方が、と言うような顔をしていた。
「はい、それは分かっていますが、私は犬の担当な者で浜井さんの子犬の事についてお聞かせ願いたいのですが。もちろん浜井さんの事についてもお聞きしたいと思いますが」
 房江は、警察の人がの犬の担当というのは警察犬のことかと思っていた。
「奥さんの抱いてた犬は、あの大きくなる何とか言った、名前が出てこないんですが」
「セントバーナードじゃないんですか?」
 麻美は助け舟をだすように言った。
「あっ、そうそうそんな種類の子犬」
 房江は、やっとのことで思い出した。
「その子犬を抱いて、どこに行こうとしてたか分かりませんか?」
「場所までは分かりませんが、乗っていったタクシー会社なら日記を見れば分かりますが」
「じゃっ、日時も分かりませんか?」
「日記を見れば、分かると思います」
 麻美は房江に頼み日記を見せて貰えることになったので、家まで付いて行くことにした。
 房江の家の前まで来て、浜井の家のすぐ後ろ側だということに気が付いた。
麻美は、玄関の前で少し待った。
「お入り下さい」
 房江が玄関へ出てきて中へ入るように言うと、居間に通され少し待つように言われた。
 麻美は、居間のソファに座り周りを見回した。
 一人暮らしの老婦人にしては、綺麗に片づいていて花などが生けられて壁には綺麗な花の絵画が飾られていた。
 五分程したころ、奥の方から房江が急ぎ足で居間に入ってきた。
「刑事さん、お待たせしました。書いてはありました、三月六日の二時ごろ天気は、朝から曇りって書いてあります。奥さんは大和タクシーにのって、金沢市内の方へ向かって行った。少し元気がなさそうとも、書いてあります」
「よろしかったら、そのページだけでも、見せて頂けませんか」
 麻美は幾ら老婦人とはいえ、女性のそれも日記を見せてくれと言うもの、厚かましいのではとは思ったが、
「ええ、良いですよ。乱字ですが。この年になると、毎日、そう変わった事がありませんから、天気とか、近所の井戸端会議で何言ってたとか、つまらない事しか書いてないんですよ」
「恐縮です。では拝見します」
 麻美は日記を手に、三月六日のページを読んでみた。
 房江の言葉通りの事しか、書いてなかった
「浜井さんの奥さんは、いつもタクシーで出かけるのですか」
「いいえ、いつもはご主人と一緒に自家用車か、お一人の時はバスで出かけていらっしゃいましたよ」
 房江は、だから気になり日記に書き記したんだと話した。
「そうかもしれませんね、この時は矢吹さんは珍しく感じたのかもしれませんね」
 房江は思いだしたかの様に。
「そうだ、あの時、奥さんにもう一つ珍しいことがあったの」
「珍しいことって何ですか」
 麻美は、房江の記憶力のすばらしいのに感心した。
「あの日、奥さんお化粧をしてたの」
「お化粧って、浜井さんいつもはしていないんですか?」
 房江は寂しそうな顔をして
「そうなの、ご主人が焼き餅やきで化粧をすると、うるさく言うって愚痴を聞いたことがあったものだから」
「きっと、特別な人に会うのかなぁと、思ったのを覚えてるわ。だってそう思いませんか刑事さん、女心ってそういうものでしょ?」
 麻美は歳は関係ないか…と、独り言を言った。
「女の感ですか、矢吹さん」
 二人は笑みを浮かべた。
「助かりました。とっても参考になりました。ご協力に感謝します」
 麻美は、深々と頭を下げて、ハンドバックを肩に掛けようとしたとき、
「刑事さん、良かったら昼食を一緒にいかがですか」
 時計を見ると、十一時四十五分だった。
 中署に帰っても昼食が当たるかどうか分からないかも知れないと思った。
 迷ったあげくもう少し話が聞けるかもしれないし、一人で食べるのも味気ないと思ったら、誘いを断る理由が見つからなかった。
 警察官にあるまじき行為だと言う事を、浮かばなかった訳ではないが、腹が減っては何とか……。
「有り難うございます。それではご一緒に。私にも何かお手伝いさせて下さい」
 麻美は、遠慮なくご馳走になることにしたが料理という物を、あまりしたことがないとも言えず、軽はずみな言葉を発した自分に後悔した。
「刑事さん、年寄りの作った物で良ければ、食べて下さい。朝から色々仕込みをしてありますから、後は熱を加えるだけで良いんですから」
 麻美はホッとした。
「じゃぁ、私は食べるのを手伝うと言うことで」
「面白い刑事さんですね。若い人と食事が出きると思うだけで、食事が進みそうですよ」
 麻美は、老婦人の一人暮らしの寂しさって、こういう事なのかと感じてた。
 その上、調子にのって
「私で良かったら、いつでも呼んでやって下さい。別に食事代を浮かせようと言うことではなく、私も昼食はほとんど一人ですから」
 そう房江に言うと
「嬉しいです。いつでも立ち寄って下さい。今度は、刑事さんの好きな物を用意しておきますから」
「恐縮です。それでは今から私のことを刑事さんと言わずに、麻美と呼んで下さい」
「麻美さんと言うのですか。かわいいお名前だこと、孫ができたみたいでうれしいわ」
「孫ではなく、友達として付き合って下さい!いいですか」
 麻美は、本心からそう思った。
「益々うれしいわ。こんな若い友達かできたなんて、何か夢みたいよ」
 房江は、嬉しそうに、食事の支度を始めた。
「美味しかった!房江さんは料理が上手なんですね」
「嬉しいことを言って下さるのね。作り甲斐がありますわ。麻美さんは、どんな物がお好きですか?」
「今、よばれたような日本食だったら何でも好きです」
 麻美は、時計を見て一時を過ぎてるのに気が付き
「房江さん、長居をしてしまいました。急いで署に戻らないといけないので!今日はどうもご馳走様でした。今度来るときは、美味しいお茶持ってきますね」
「まぁ、楽しみに待ってます」
 そう言って麻美は、バスの時間を房江に聞いた。
「良かったら、私が車で送りましょうか?どうせ退屈してるんですもの、麻美さんと、食事後のドライブも悪くわないわ」
 麻美は、その言葉に甘えることにした。
「ご迷惑を、お掛けします」
 麻美はそう言うと、房江の車に乗り込んだ。
「麻美さん、こんな年寄りが、車の運転するなんて、珍しいと思って居ません?」
「正直言って、少し」
「本当に正直な人ね。死んだ主人は、車の好きな人で、よく二人でドライブに行ってたの、そんなとき進められて免許を取ったのよ、今じゃ懐かしい大昔の話だけどね」
 麻美と房江は、世間話をしながらドライブを楽しんでいた。
「この辺でいいですから」
 中署の周りは、テレビ局だの、電力会社などでにぎわった所にあり、迂回するのに混雑していていつも時間がかかるのを経験していたせいもあり、房江に気を利かせた。
「じぁ、またいつでも寄って下さいね」
「有り難うございました」
 麻美は簡単な挨拶をして、車を降り中署の中へ走る様に入っていった。
「先輩、何処に行ってたんですか。携帯もつながらないし、課長には、渡瀬はどうしたんだと怒鳴られるし、さんざんだったんですから」
「それで課長は、今どこに?」
「あっ、検察庁に出かけました。長引くようだったら、そのまま帰宅するそうです」
 麻美は、ホッとした。
「先輩って運が良いですよ。本当に!」
 北島は、不満そうな顔をしていたが、
「今度、おごるから!そう、ふくれない」
 麻美は、浜井の事を北島に聞いた。
「それがですね先輩、課長が言うには、昔、警察関係の中にいた、人物だって言うんですよ」
「それで、どこの警察署にいたの」
「それが、警察犬の訓練士だったそうです」
「それで、今も警察犬の訓練をしているの」
「いえ、今は退職して金沢市内で、ペットショップ(愛犬の家)をしているそうです」
「北島君、浜井の奥さんの事で課長なんか言ってなかった」
「奥さんは、体の弱い人だったそうです」
「だったって。どういう意味」
「一ヶ月前に亡くなっていて、浜井はかなり落ち込んでいたそうです。それで宗教的な理由でお通夜とか葬式はしなかったそうです」
 麻美は、殺人事件にならなくてよかった!
 房江さんの取り越し苦労で、よかった思い後で房江に電話かけて安心させてあげようと思った。
「それで、被害者の松本さんの家族には連絡が取れたの」
「それなんですが、前さんが聞き込みしてきた結果、金沢市内の高尾と言う所に住んでいたんですが、二ヶ月前から姿を消すように居なくなったそうです。家族にも家を出る理由は、言わなかったみたいです。ただ、犬を飼うことにしたと言うこと、携帯電話の番号を書いていつでも連絡が取れるようだったので、特に探さなかったと言うんです。それに元中学の美術の先生をしていたそうなんですが、その時から定年後は自由に生きて行きたいと言っては、旅行に出かけて何日も帰って来なかった事もあるみたいで、携帯電話も息子さんが持つように進めてやっと持つようになったと思ったら、こんな事になったと言っていたそうです。以上で前さんの、聞き込みの結果報告の全部です。先輩、家族の人達が、もうすぐ遺体を引き取りに来るそうですがどうします」
「それじゃ。家族に会ってから、浜井の店に行ってみようか?」
「はい、その前に昼食食べて良いですか。課長の顔を見ていたら、食事どころではなかったもので」
 麻美は、やっぱり房江のところで済ませてきて、正解だったと思った。
 家族に会って子犬のことについて、聞いてみたが全く覚えがなく、見た事もないと家族全員が口を揃えて言っていた。
 麻美は、最後に松本さんの葬式に付いて聞いてみた。
「私どもはクリスチャンなので、教会でします」
 松本さんの息子さんが答えてくれた。
「場所は決まっているんですか?」
 麻美が聞くと
「はい、広坂の市役所横のカトリック教会で明日の十時からですが、何か?」
「いえどうという事はないんですが、松本さんが飼っていた犬のことなんですが、今私どもで保護しているんですが、どうなさるのかと思いまして、そちらで引き取っていただく意志があるのかどうか、お聞きしたいと思いまして、お引き取りになるにしても、お葬式が済んでからの方が良いと思いまして」
 麻美が、息子さん夫婦に確認を取ろうとした。
「そうですか犬がいたんですね。忘れてました。明日家族で相談をした結果ご連絡しますので、よろしいでしょうか」
 そう返事が返ってきたので、麻美が一言付け加えた。
「実はですね、今日あの犬は自分が盗まれた犬だから、返してくれと言われまして、こちらでも今調べている最中ですので、引き渡しはすぐとは行かないかも知れませんが、よろしいでしょうか」
 麻美は、ある程度の事は説明して置いた方が良いと思ったので、浜井の名前は伏せて説明した。
「それはどういう事なんでしょうか?父が他人の犬を盗んだと言うのでしょうか」
 息子は、顔を赤らめて言ってきた。
「ですから、今はまだ松本さんが盗んだとかどうかと言うことよりも、あの犬が誰の物かを調べていますので、もう少しお待ち下さい」
 麻美がそう言うと
「すいません、取り乱しまして。父はとても真面目な人でしたから、泥棒をしてまでも犬をほしがったとは考えられなかった物ですから、実は私の一番下の娘がアトピーと言う皮膚病に掛かっていまして、父はそれで犬を飼う為に家を出たのだと思いましたが、まさかその犬を盗んでまで飼いたいと思ったとは信じられませんでしたので」
「そうでしたか、娘さんがそのような病気であれば動物を飼うことは無理なんじゃないですか」
 麻美が、心配そうに聞くと
「そうですね、たとえ父の犬であったと分かっても私どもでは飼ってあげれないと思います」
「分かりました。どちらにしても確認が終わり次第ご連絡しますので」
 麻美はそう言うと息子夫婦を丁寧に玄関まで見送った。
「北島君、いつまで食べてるの!浜井の店に行くわよ」
 北島は、麻美が後ろから声を掛けて来たので、出前を取っていたそばを口に残したまま立ち上がった。
「そば屋の出前ってどうしていつも、ああ遅いんでしょうね。こちらは昼も夜も無しの職業だって事知ってるはずなのに」
 そう言って、不満を口にしながら、車の運転席に乗り込んだ。
「何、ぶつぶつ言ってるのよ。早く車を出して!」
 麻美と北島は、浜井のペットショップの店の前に車を止めた。
 店の入り口にはガラス越しに、子犬たちが種類別に入れてあり、店の中に入ると色々な動物のグッツやエサが綺麗に並べられ売られていた。
 店の奥の方からエプロンをした、浜井が出てきた。
「どうも、刑事さん!犬を返しに来てくれたんですか?」
 浜井が嬉しそうな顔をしながら、椅子に座るように進めてきた。
「いいえ、まだ調べたいことがありますので、もうしばらくはこちらで預からせて頂きます。実は浜井さんにお聞きしたい事が、二・三ありまして」
「私に何を?」
 浜井は、立ち上がり店の商品を並べだした。
「実は奥さんの事なんですが」
「妻が何か?」
「二ヶ月前の三月六日の日に、どこにお出かけになったか知りませんか?」
「二ヶ月も前の事でしょ、覚えてはいませんね」
「実は、近所の人が奥さんが、子犬を抱きかかえてタクシーに乗って行くのを見たらしいのです。何か思い出せませんか」
「それでは、妻が犬を持ち出したと言うんですか」
 浜井は、びっくりしたと同時に困惑した。
「それは分かりませんが、その子犬が浜井さんの犬かもしれませんが今、こちらで預かっている犬かどうかは、まだわかりません」
「盗まれた犬は、妻の形見のような物なんです、私はどうしたら良いんでしょうか」
「はっきりした事が分かり次第連絡をしますので、もう少しお待ち下さい」
 麻美は、浜井にそう言うしかなかった。
 だけど麻美は、疑問を感じた。どうして浜井は犬が盗まれた日を知らないんだろう。
「浜井さん、犬が盗まれた日はいつですか?」
「それが、私は三月の二日から秋田に行ってまして、妻が危篤だと病院から連絡があったので、四月の十日に戻って来ました。その時、子犬がいないのに気づいたものですから。妻に聞くにも、すでに妻の意識はありませんでしたから。それで今日の朝刊に、犬の事が書いてあり私の犬だと確信したんです。それに私に内緒で妻が、犬を人様に差し上げると言うことは考えられませんでしたから」
「そうでしたか。浜井さんの事情は良く分かりましたが、奥さんが犬を連れだした事は間違いない話なんです」
 麻美は、房江が話していた事をもう一度思い出してみた。
「浜井さん、奥さんは普段お化粧をしていますか」
「いいえ、妻は私があまり好きではないので、よほどの事がない限り、しないと思います」
「それがですね、三月六日の日は、お化粧をしてたらしいのです」
 浜井は、何も言わずに考え込んでいた。
「刑事さん、何年か前に妻が朝から化粧をしていた事があって、今日何処かに出かけるのかって聞いたことがあるんですが、その時は昔、世話になった先生の退職祝いで、何人かでお祝いをしてあげることになったって、その時少しは若く見せたいから化粧をしたんだと、言っていたことはありますが」
「それって、何年まえですか」
「たしか、七年程前だと思います」
「奥さんは、金沢の人ですか」
「ええ、生まれてから一度も金沢から出た事がないと言うのが自慢みたいなところがありましたから」
 麻美は、ひょっとして殺された松本宗一郎の教え子ではないかと思った。
「浜井さん、奥さんの中学の時の写真かなんかありませんか」
「はい、まだ何も整理する気がしないものですから、妻が亡くなった時のままにしてありますから探せばあると思います」
「もし、良かったら見せてもらえませんか」
 麻美は、浜井に見つかり次第連絡して貰えることを約束して、店を出ようとした。
「すいません。犬のエサを貰いたいのですが、預かっている犬のエサがほしいのです、犬を飼ったことないもので、選んで頂けませんか」
 浜井は、即座に
「これを食べさせてやってください。お金は良いです。私の犬かもしれないから」
 そう言って、ドックフードと缶詰を袋に詰めて、麻美達の乗ってきた車の後部座席に乗せてくれた。
「多分、経費で落ちると思うので、請求書を書いて頂ければお支払い出きるので」
 麻美は、浜井の行為に甘える訳にはいかず、警察官としては、違法行為だと説明した。
「分かりました。私の犬じゃなかったら請求書をお持ちします。それでいいですか」
 浜井は、ニコリと微笑みながら言った。
 麻美は、動物好きに悪人はいないというが、本当かもしれないと思った。
「浜井っていい人みたいですね」
 北島は、浜井は殺人事件には、関係ないかもしれないと思った。
「北島君、署に帰ったら今日のことをもう一度確認してから帰りましょ」
「そうですね。まだ容疑者らしき者も浮かんできてませんし、課長も帰宅してるだろうから、明日、またがんばりましょう」
 麻美と北島は署に戻り、今日の日報を書いて、帰宅する事にした。